俺ならこう映画化するね

 近所のレンタル・ビデオには割引の日というのがあって、そういう時は無理やりにでも何か借りずにはいられない。その日も俺は飯を食おうと商店街をぶらぶらしてたら、レンタル・ビデオの店頭に割引の旗が立っているのを見つけて、そのまま中に入っていった。新作コーナーを覗いてみると、一番人気は「クライマーズ・ハイ」のようだ。全部借りられている。まあ、去年の夏に映画館で見たので別にいいのだが、気になったのはその横にちょこんと置いてあった違う「クライマーズ・ハイ」だ。三年ぐらい前にNHKでやってたドラマ版である。
 棚半分を占領する人気作品の端っこには、たいてい関連作品が2〜3本置いてある。タイトルだけ真似たまがい物だったり、リメイクの場合は元の作品だったり、以前にドラマ化された事があればそれが置いてあったりする。どちらかというとメインよりも関連作品のほうが気になるタチなので、迷わずドラマ版を借りた。ちょっとジャケットがかっこ悪かったけど。
 実は正月に実家に帰った時、親父の本棚から「クライマーズ・ハイ」の原作小説をくすねてきて、ちょうどそれを読み終えたところだった。だからどうしても、お手並み拝見という心理状態で見る事になる。そういう状態だと点が辛くなるはずだが、これには感心した。映画版より上手に脚色してあったのだ。
 話の順番として、まず映画版について書くべきだろう。
 この映画は二つの物語から成り立っている。ひとつは日航機墜落事故を報道する新聞記者たちの群像劇だ。これは大変面白い。もうひとつは主人公の同僚の死とその遺児との交流である。こちらがどうも面白くないのだ。要するに仕事とプライベートの両面を描いているわけで、普通なら仕事をメインに描写して、プライベートは味付けにとどめておくものだ。ところが困ったことに、この映画はプライベートの部分も仕事と同等の割合で描いている。そのため面白い映画と面白くない映画のカットバックのような奇妙な状態になっている。まるで「イントレランス」である。
 しかも後半になるにつれてカットバックの間隔が短くなるので、せっかくの盛り上がりが頻繁に中断されてイライラしてくる。もちろんダブル・クライマックスの相乗効果を狙ったのはわかるし、タイトルの意味がそこで明らかになるという理屈もわかる。しかし理屈と感覚は別である。俺はいっそのことプライベートはバッサリ切ったほうがいいと思った。
 原作はどうかというと、プライベートの割合は4分の1くらいである。映画より少ないのだ。もっとも映画の場合は感覚的に同等の割合と思っただけで、実際に時間を計ったらもっと短いかもしれない。面白い部分は短く感じ、面白くない部分は長く感じる。それだけの事かもしれない。しかし原作に無いエピソードが加えられているのも事実である。監督を弁護すれば、小説の強みとして地の文でみっちり説明できるという点が挙げられる。映像化する際はその説明をドラマに置き換えなくてはならない。だから多少長くなるのはやむをえないとも言える。もっともその置き換えが必ずしも成功してないのが問題なんだけど。
 ではドラマ版はどうなのか。次回はそこから始めたいと思います。
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