リアルのベクトル

 ギャオで放送中の「ツイン・ピークス」だが、一日一話のペースで見ていればすぐに終わると思って、先月のブログでそのように書いた。しかしよく見たら週二話しか配信されていないではないか。あっという間に追いついてしまったので、仕方なく同じくギャオで放送中の「シルバー仮面」と交互に見ている。「ツイン・ピークス」の終了まであと一ヶ月ぐらいかかりそうなので、「アドリブ話法」の続きはしばらく先になりそうだ。
 というわけで今回は「シルバー仮面」を見ていて思ったことを書いてみよう。
 「シルバー仮面」は70年代の始め頃に放送されていた等身大ヒーロー物である。当時は「仮面ライダー」も始まったばかりで、まだまだヒーローといえば巨大ヒーローの時代だった。加えて子供番組らしからぬアダルトな雰囲気と暗いドラマ、低予算のため特撮皆無の地味な画面が続くこの番組は視聴率で裏番組の巨大ヒーローもの「ミラーマン」に完敗してしまう。そのため10話ぐらいで路線変更を強いられ、「シルバー仮面ジャイアント」という巨大ヒーローものになってしまった。
 ところがこの等身大時代の「シルバー仮面」は、大人になってから見るとむちゃくちゃ面白いのだ。第一話の冒頭はいきなり宇宙人来襲の真っ只中から始まるのだが、画面が暗くて何がおきてるのかわからない。わかるのは怒号とサイレンとちらちら映る変な生き物だけなのに不思議と見るほうのテンションがあがってしまう。第一話の監督は鬼才、実相寺昭雄だ。それ以降の話でも墓場で対決するシーンでシルバー仮面卒塔婆で宇宙人をタコ殴りにしたり、商店街でシルバー仮面と宇宙人の追っかけをゲリラ撮影で撮ったりとアヴァンギャルドな画面が頻出する。
 しかし何といっても特筆すべきは脚本の凄さだ。脚本は佐々木守上原正三市川森一のローテーションで執筆されている。この三人は円谷特撮オールスターズといっていい面子で、ウルトラ・シリーズに高度なドラマ性を持ち込んだ人たちだ。ただし「シルバー仮面」は円谷プロではなく「月光仮面」などを作った宣弘社の製作である。
 ここではドラマ的に一番生々しかった第四話「はてしなき旅」を紹介しよう。宇宙人に追われる主人公たちは、科学者であった亡き父の愛弟子・湯浅博士の元に身を寄せている。しかし宇宙人の魔の手はここにも伸びてきて、湯浅博士の娘がさらわれてしまう。シルバー仮面の活躍で娘を取り返すのに成功するが、それまでよき協力者であったはずの湯浅博士は、とたんに手のひらを返して主人公たちへの協力を拒否するのだ。見よ、このリアリズム。脚本は後に「傷だらけの天使」を書く市川森一である。円谷プロで出来なかったことを思い切りやっている感じだ。
 ギャオのユーザー・レビュー欄に「平成ライダー・シリーズはリアル路線だというが、こっちのほうがリアルだ」という書き込みがあった。俺は平成ライダー・シリーズはクウガしか見てないけど、確かにあれはリアルだった。しかし「シルバー仮面」のリアルさとはちょっとベクトルが違うと思う。クウガのリアルさは現実世界に怪人が現れたら警察はどう対応するかといったシミュレーションのリアルさである。いわば設定のリアルさであり、その上で展開するドラマは単純な勧善懲悪ものだったような気がする。善人はあくまで善人であり、素朴な正義感を最後まで持ちつづける。
 それに対して「シルバー仮面」の設定はいいかげんで矛盾だらけだけど、ドラマ展開がリアルなのだ。仮にこういう事件に巻き込まれたら、人間はこういう反応をするだろうというリアリズムである。たとえ善人であっても主人公のせいで宇宙人に襲われるとなれば、やはり主人公を追い出したい思うのが人間だろう。そこに面白さを見出せるのは大人の感性だと思う。だからクウガシルバー仮面だったら、子供は絶対クウガに熱中するに決まってる。だって子供は怪獣図鑑なんかを繰り返し読んだりして設定にすごくこだわるけど、人生経験がないから複雑な人間心理なんかちっとも理解できないんだから。生々しいドラマは苦いだけである。
 では果たしてそんな物を子供に見せて意味があるのだろうか? 俺はあると思う。こういうドラマは子供たちが将来経験するであろう挫折や、その時に味わう絶望への免疫をつけてくれる良薬なのだ。苦いけど見れば必ず糧になる。

シルバー仮面 DVD-BOX

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