競馬シリーズとディケンズ

 どうもいかんなあ。玄関に積みっぱなしのビデオを片付けようとしたのだが、ついパッケージの解説文を熟読したりして、ちっともはかどらない。そのうちなぜか本棚の奥のディック・フランシスを手にとってしまい、猛烈に懐かしくなって代表作の「興奮」を読み始めてしまった。
 フランシスはイギリスのミステリー作家で、元騎手という経歴を生かした競馬サスペンスで一世を風靡した作家だ。主人公はそのつど異なるけど、毎回競馬界を舞台にして、その裏側にうごめく陰謀に巻き込まれた男の苦闘を描いている。一般的には競馬シリーズと呼ばれている。この人の小説はとにかく主人公がひどい目にあうのが特徴だ。しかしどんな目にあってもストイックに耐える様子がハードボイルド的でかっこ良いんだなあ。高校時代にハマってた作家だ。
 確か彼の小説のほとんどは一人称で描かれていた。そして降りかかる災難をまるで他人事のように淡々と描写する。それがかえって読むほうの胸を締め付けるのだ。「興奮」もまさにそんな感じで、久しぶりに胸を締め付けられる「フランシス感覚」を味わった。ただ読んでるうちに、この感覚は数年前に読んだディケンズの「デイヴィッド・コパフィールド」に似ている思った。これはディケンズ唯一の一人称小説で、波乱万丈の人生を他人事のように語っている作品だ。特に最初のほうの、主人公が継父に虐待されるところの描写はフランシスの描写の仕方とそっくりである。
 まあディケンズはイギリス人ならみんな読む古典なので、影響を受けて当然なんだろうけど。
復活の日 (ハルキ文庫)  デイヴィッド・コパフィールド〈1〉 (岩波文庫)   興奮 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 12-1))