SF恐怖省

 学生時代からの友人が結婚する事になった。仲間内のしきたりとして、学生時代に作っていた同人誌を誰かが結婚するたびに復活させるという習慣があった。俺はそのたびに評論めいた文章を寄稿していたが、去年からブログを始めてしまったので、似たような文章ばっかり書いても面白くないなと思った。そこで今回は久しぶりに小説を書いてみた。ちょうど「ポトラッチの経済学」を書いてたときに思いついたSFのアイディアがあったので、割とすんなり取り掛かることが出来た。
 出来上がった同人誌を結婚式の二次会で配ったところ、大評判だった。俺の小説もなかなか好評だった。二ヶ月前のことだ。現在、同人誌の方は大体ハケたみたいだけど、このブログの読者でまだ読んでない人も若干は居ると思うので、俺の作品をPDFファイルでダウンロード出来るようにしておいた。そんなに長くないし、すぐに読めると思う。正月にでもゆっくり読んでほしい。
 ファイルはこちらで手に入れてください。タイトルは「SF恐怖省」です。
 http://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/68952&key=kameero
 加筆訂正はしてないので、同人誌を持ってる方はダウンローする必要はありません。
 以下に書くのはその小説のあとがきだ。本編の最後にくっつける予定だったけど、思い直してブログに載せることにした。種明かしめいた事を書くので、ここから先は本編を読んでからの方が面白いよ。
 この小説は要するに巨大な陰謀があって結末でそれが明かされるという話なのだが、まず具体的にどういうストーリーで展開させるかというのが問題だった。ここで俺は「アドリブ話法」を採用した。曖昧な設定のままでとにかく書き始めてしまったのだ。
 オープニングは池波正太郎のやり方を真似てみた。池波も書きながら考えるタイプで、オープニングでとりあえず適当な奴に街中を歩かせる。そうすると自然と事件にぶつかるんだ、とインタビューか何かに書いてあった。そこで俺も、誰だか知らないが主人公らしき人間に新宿を歩かせてみた。すると上手い具合に第一章の終わりで大事件をぶつける事に成功した。しかもそこまで書いた時点でもう物語の方向性が見えてしまった。あとはその方向をまっすぐ進む感じで話を展開させていったら、自然と結末に至ってしまった。池波メソッド恐るべし。
 ただ近未来の設定なのに、ちっとも未来っぽくならなかったのが少し残念だ。まだまだ修行が足りないなあ。とは言うものの、実はその原因はわかっている。この作品は今から7年後が舞台なんだけど、作中に出てくる統計数字は09年現在のものを使用している。犯罪に占める老人の割合も、刑務所の知能テストの結果も、だから偽らざる日本の現実なのである。これらの話題は執筆前に読んだ本の影響で書いてしまった。同時にある実験をしてみたい誘惑に駆られたのだ。それは、日本の現実をそのまま書くだけでSFになっちゃうんじゃないか、という実験だ。結果は、まあ、読んでのとおりである。やはり未来が舞台である以上、もう少し状況をデフォルメさせるべきだったかも。
 執筆前に読んで影響を受けてしまった本はこの三冊。
犯罪不安社会 誰もが「不審者」? (光文社新書)  暴走老人! (文春文庫)  累犯障害者 (新潮文庫)
 少年犯罪に関しては、けっこう前にパオロ・マッツァリーノの本が話題になっていたので今更という感じもするけど、知らない人もまだまだ居るみたいなので書いてみた。話題になった文章はここで全文読める。先の「暴走老人」と合わせて読むと興味深い。
 http://mazzan.at.infoseek.co.jp/lesson2.html
 あとこのサイトも参考になる。これを見ると少年犯罪の「質」が変わったという話もウソッパチである事がわかる。
 http://kangaeru.s59.xrea.com/
 最後に関係ないけどブラック・アイド・ピーズのPV。テクニック至上主義、アクションの快感だけで出来ているような映像だ。こういうのも「少年犯罪を助長する」とか言われちゃうのかな? それではよいお年を。