映画の叙述トリック(2)

前回の記事を書いてからずっと考えている事がある。「ユージュアル・サスペクツ」問題である。この映画は叙述トリックの名作という評判があるけど、俺にはどうしてもそうは思えないのだ。もちろんこれが犯罪サスペンス映画の一級品であることは間違いない。し…

映画の叙述トリック

悪名高いディズニーの「アトランティス」を借りてきた。何故悪名高いかはこれを参照。 http://www.geocities.co.jp/SilkRoad-Ocean/9219/atlantis.htm 要するに「ジャングル大帝」に続いて、今度は「ナディア」をパクったわけだ。とはいえ「ナディア」に関し…

小説以外の叙述トリック

まず有名なPVを紹介しよう。これは某有名映画のパクリだけど、よく出来てる。 さて今回は叙述トリックのお話。小説や映画でその手のやつは腐るほどあるけど、それ以外のジャンルではなかなか無いみたいだ。しかし叙述トリック好きの俺としては、あらゆるジ…

うつし世はゆめ

ある日とつぜん、かめえろと名のる猫がぼくの家をたずねてきて、ペネトレに会わせろという。ペネトレはぼくが小学五年生のときから、ぼくの家にすみつくようになった猫なんだ。ぼくとペネトレとの対話が本になったのは、もう十年いじょうも前のことだ。その…

ヨーロッパ王室映画祭

16世紀のヨーロッパはちょうど近代が始まった頃なので、色々面白い人間がいて映画のネタにも事欠かない。ただヨーロッパの王室は、国をまたいだ政略結婚をバンバンやってたので系図が入り乱れている上に、似たような名前が何人もいるので訳がわからなくな…

アンチ自分探し派

20世紀最大の哲学者といえば、ハイデガーとヴィトゲンシュタインだ。俺は断然、ヴィトゲンシュタイン派だなあ。理由は単純、かっこ良いからだ。なにしろオーストリア随一の資産家の家に生まれ、姉はクリムトのモデル、兄は有名なピアニスト(第一次世界大…

視点と人称について(3)

映画における一人称についてあれこれ書いてきたけど、今まで紹介してきた映画は特殊な例である。普通に一人称小説を映画化しようと思ったら、結局は三人称映画にするしかないのだ。それくらい映像による一人称表現は使い方が難しい。という事で次は映画にお…

視点と人称について(2)

映像による一人称表現は難しい。時間経過や場所移動を省略できないのでどうしても間延びしてしまうのだ。しかし「クローバーフィールド」はその突破口を提示してくれた。全編ホーム・ビデオの映像というコンセプトよって、間延びの問題がクリアされているの…

視点と人称について

さて、前回は鳴かず飛ばずの小説家だったジャック・ヒギンズが、意識的に自己改造して自作に映画的手法を導入し、そのお陰でベスト・セラー作家になれたという仮説を展開した。この仮説は、彼の作品における人称の変化からも裏付けられる。念のためにヒギン…

自己改造した作家

去年の正月に帰省したときの話だけど、父親が歳をとってきたので寝室を二階から一階に移す事になった。それで一階にある俺の部屋を明渡すハメになった。俺はとりあえず部屋の荷物をざっと整理して物置に放り込んでおいた。それから一年経って、今度は物置の…

笑いと恐怖は紙一重

新年一発目に借りた映画が原田眞人監督の「伝染歌」だ。これは実に奇妙な映画だったなあ。一応ホラー映画ということになっているけど、コメディの要素が大量に挟み込まれているので、分類不能な作品になっている。もちろんホラーにユーモアを挟み込むのは戦…

SF恐怖省

学生時代からの友人が結婚する事になった。仲間内のしきたりとして、学生時代に作っていた同人誌を誰かが結婚するたびに復活させるという習慣があった。俺はそのたびに評論めいた文章を寄稿していたが、去年からブログを始めてしまったので、似たような文章…

かめえろボンド化計画

前回の記事を書くために、「ドクター・ノオ」の映画版を見てから原作を読み返してみた。念のために「ロシアより愛をこめて」の映画と原作もチェックした。そうしたら止まらなくなってしまった。本棚から007シリーズの文庫を引っ張り出して、処女作の「カジ…

アクション映画の誕生

ハリウッド映画に対しては、複雑な感情を抱いている方も多いと思う。アンチ・ハリウッド派からは、あんなもの映画じゃなくてアトラクションだとか、まるで工業製品だとか言われている。それはそれでよく分かるんだけど、どこか否定しきれない部分があるんだ…

ガラパゴス化する日本映画

いや、この記事が面白かったから紹介しようと思っただけなんだけどね。 http://filmmania.blog.so-net.ne.jp/2009-07-12 日本映画がいかに世界基準から遠く離れているかを、徹底的に技術論から解き明かしている。こういうの大好き。みんなぜひ読んでみて。個…

英蘭東印度会社群像

1629年6月4日未明、オランダ東インド会社の商船「バタヴィア号」が、オーストラリア大陸の西岸沖で座礁した。船長アリアン・ヤーコブスと上級商務員フランシスコ・ペルサートは、乗員乗客を近くの無人島に避難させ、救援を求めて、47名の乗員ととも…

これが本当の南部ゴシック

映画評論家の町山智浩によると、「悪魔のいけにえ」は南部ゴシックの系譜に連なる作品だという。南部ゴシックとは町山の表現を借りれば、「アメリカ南部のど田舎に退化した人間たちがいて、ふらふら迷い込んできたよそ者を捕まえてはなぶり殺しにする」映画…

トビー・フーパー雑感

休日の午後、クーラーの効いた部屋で淹れたてのコーヒーを飲みながらビデオ鑑賞。我ながら安あがりだと思うけど、それだけで十分いい人生だと思ってしまう。ホームレス大学生だった頃と比べれば、貴族のように優雅な生活だ。たまに自分がいまだに生きている…

ポトラッチの経済学

いきなり転載で恐縮だけど、ちょっと前のニュースから。 「日本に謝罪」…かつて対日批判急先鋒の米ノーベル賞教授 【ニューヨーク=山本正実】「私たちは、日本に謝らなければならない」――。2008年のノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマン米プ…

クール・ジャパン論争

何年か前に、世間でやたらとクール・ジャパンなる言葉がはやったことがあった。そんなときに読んだのが「模倣される日本」だ。著者は前回の記事でも紹介した東大教授の濱野保樹。この本はクール・ジャパン論の古典であり、映画やアニメ、ファッションにいた…

クロサワの呪い

プロ野球のオーナー企業の変遷をたどっていくと、日本の基幹産業の移り変わりが見えてくる。「古くは映画会社、鉄道会社、食品会社らを経て今はIT産業である」なんてことをライブドア騒動のときに散々マスコミが書いてたなあ。しかしそういう記事では必ず…

ポール・ウイリアムスと俺

今年はカーペンターズのデビュー40周年だそうで、レコード屋にはベスト盤やトリビュート盤、DVDなんかが店頭に並んでいる。俺は今日、久しぶりにレコード屋に入って初めてそのことを知った。まあ何にしてもカーペンターズは嫌いじゃないので、早速視聴…

アドリブ話法ふたたび(2)

半村良という人は言うまでもなく日本SFの巨匠なんだけど、初期の「石の血脈」「産霊山秘録」「妖星伝」なんかが当時の読書人に与えたインパクトはかなり凄かったようだ。巨石信仰や吸血鬼伝説、あるいは歴史を裏で操る闇の一族といった古色蒼然とした道具立て…

アドリブ話法ふたたび

この記事は3月に書いた「アドリブ話法」の続きです。 ギャオで放送していた「ツインピークス」がやっと終わった。うわさ通りのバッド・エンディングだった。ユーザー・レビュー欄を見てみると、終わり方に納得していない人が多いようだ。しかしこれは別に終わっ…

トマス・コレクション

トマスが転勤して一ヶ月たつ。大学時代は毎日のように一緒に遊んでた間柄だ。馬鹿みたいにけらけら笑いながら何時間もダベっていた。二人きりでいくらでもダベり続けることが出来た。ここ数年はそれほど頻繁に会ってたわけではないけど、いつでも会えるとい…

たまには日記らしく

風呂上りに今日の出来事をささっと書いて寝よう。 今日は友人にCDを貸したついでに二人で焼肉ランチを食べた。ランチタイムなので結構こんでいた。店内ではあちこちで豚インフルエンザの話題で盛り上がっていた。それにつられて我々も「復活の日」の話なんぞ…

競馬シリーズとディケンズ

どうもいかんなあ。玄関に積みっぱなしのビデオを片付けようとしたのだが、ついパッケージの解説文を熟読したりして、ちっともはかどらない。そのうちなぜか本棚の奥のディック・フランシスを手にとってしまい、猛烈に懐かしくなって代表作の「興奮」を読み始…

リアルのベクトル

ギャオで放送中の「ツイン・ピークス」だが、一日一話のペースで見ていればすぐに終わると思って、先月のブログでそのように書いた。しかしよく見たら週二話しか配信されていないではないか。あっという間に追いついてしまったので、仕方なく同じくギャオで放…

あんたの時代はよかった

久しぶりに「太陽を盗んだ男」を見直した。理科の先生は何でもできるんだなあ。 物心ついたときは沢田研二の時代だった。俺が最初に認識したスター(スーパー・スターと形容されていた)といえる。俳優としての代表作はドラマ「悪魔のようなあいつ」、映画「太陽を…

唯物語批評

ガチガチの政治論文を、物語批評の手法で論じてみよう。今回選んだ本は「イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策」だ。上下合わせて600ページを超える大作なので読むのにちょっと骨が折れた。これは世界中で、政治論文としては異例のベストセラーになった…